ストレスを巡る「心」と「体」の関係——心身共に健やかに生きるために

理学部 後藤 聡教授

2020/10/08

研究活動と教授陣

OVERVIEW

新型コロナウイルス感染症拡大を受け、生活変化に起因する疲労やストレスが問題視されている昨今。分子?細胞レベルの生命科学の観点からストレスの研究に取り組む理学部の後藤聡教授に、「ストレスを科学する」意義や心と体の関係について伺いました。

ストレスの種類と研究面の課題

顕微鏡が並ぶ研究室の様子

ストレスと聞いてまず思い浮かぶのは、さまざまな軋轢あつれきによって負担や苦痛を感じる、いわゆる精神的なストレスだと思います。こうした心理的?社会的ストレスに関する研究は、主に心理学分野で進められてきました。一方、暑さ?寒さを感じたとき、食事量が少ないとき、睡眠不足のとき、紫外線を大量に浴びたときなど、「人や生物の環境の変化」全般も体にとってはストレスです。これらの物理的?生理的ストレス下において、分子レベル?細胞レベルで何が起きているのかを解明する研究は、生命科学分野が担っています。

これまで両分野はほとんど交流がありませんでしたが、今後は「心」と「体」の両面からストレスを包括的に理解する必要があると考えています。そのため立教大学では、現代心理学部心理学科と理学部生命理学科が協働し、互いの知見を生かしてストレスのメカニズムや心身への影響を明らかにする研究プロジェクトを推進しています。

※平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業選定「インクルーシブ?アカデミクス——生き物とこころの『健やかさと多様性』に関する包摂的研究」

ストレスが体に与える影響と生体指標活用の可能性

実験に用いる蛍光顕微鏡とハエの細胞の観察画面

私が主に研究しているのは、ストレスと「免疫」の関係です。免疫は病原菌などから体を守る生体防御反応で、適度なストレス下であれば正しく働いて体を守ります。しかしショウジョウバエを用いた実験では、ハエに強いストレスを与えた場合、免疫が異常に活性化することが分かりました。免疫が過剰に働くと体内で炎症が起こり、さまざまな病気を引き起こします。本来は体を守るはずの機能が、ストレスにさらされることで自分自身を攻撃してしまうわけです。

現代心理学部とのプロジェクトでは、他にも唾液中に含まれるストレスホルモンの量からストレス度合いを測定する研究や、腸内環境と精神疾患の関係を探る研究などを行っています。これまでストレスの程度を測る、あるいは精神疾患かどうかを判断する方法は、問診票や面接、観察が中心でした。もし炎症やストレスホルモン、腸内環境といった生体内の反応も指標として使えるようになれば、判断材料が増えることになり、心の病気の早期発見や悪化防止につなげられるかもしれません。

ストレスとの上手な付き合い方

ストレスによって心身に不調をきたさないために日頃から心掛けられる点としては、何よりも生活リズムを崩さないことです。まずは睡眠。睡眠時間が減ると感情をコントロールしている脳の前頭前野の働きが弱まり、気分が上下しやすくなります。さらに、寝ている間にストレスホルモンが減少するという研究結果もあり、睡眠不足はまさにストレスの大敵と言えるでしょう。また、運動も重要です。脳内を活性化して、神経細胞のリニューアルを促すという研究もあります。

人の体内時計は本来25時間周期で、太陽の光を浴びることにより24時間に調節しているため、朝に日光をしっかり浴びることも大切です。

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い暮らしにもさまざまな変化が生じていますが、日々の生活リズムが崩れないよう注意して、疲労やストレスとうまく付き合い、自分の心と体の健康を第一に考えてほしいと思います。

後藤教授の3つの視点

  1. 「心」と「体」の両面からストレスにアプローチすることが重要
  2. メンタルヘルス問題の早期発見や改善に、生体指標の活用が期待できる
  3. ストレスによる心や体の不調を防ぐには、生活リズムを崩さないこと

プロフィール

PROFILE

後藤 聡

1992年東京大学理学系研究科生物化学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(理)。国立遺伝学研究所系統生物研究センター助手、イギリス?MRC分子生物学研究所客員研究員、三菱化学生命科学研究所主任研究員などを経て、2012年より現職。専門は細胞生物学?糖鎖生物学。


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